事件番号:JP2001-0001 裁 定 申立人: (名称)株式会社イトーヨーカ堂 (住所)東京都港区芝公園四丁目1番4号 代理人:弁護士 田中 英行 弁護士 板東 秀明 登録者: (名称)株式会社銀河 (住所)神奈川県座間市相武台3丁目4851番地1 当紛争処理パネルは、申立書(補正申立書)、答弁書、提出された証拠、JPドメイン名紛 争処理方針、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び工業所有権仲裁センターJPド メイン名紛争処理方針のための手続規則の補則に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり 裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「itoyokado.co.jp」の登録を申立人に移転せよ。 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「itoyokado.co.jp」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人の主張 (1)当事者 申立人は、百貨小売業およびこれに関連する商品の製造・加工・卸売業等を目的とする株 式会社である。 第42期決算期(平成12年2月末日)現在における資本金は466億7400万円、売上高は1兆490 7億900万円、経常利益は510億8100万円、従業員数は1万6514名で、北海道から広島まで全国 に176店舗を展開している。 登録者は、ドメイン名「itoyokado.co.jp」をJPNICに登録しており、2000年4月10日以後現在 (2000年12月27日現在)に至るまで、URL「http://itoyokado.co.jp/」において「SHOPPING P LAZA」と題するホームページを開設している。 (2)申立人の商標登録状況・使用状況 申立人は、国内において、「Ito Yokado」の商標名で、34件の商品商標および 9件の役務商標につき、登録を受けており、申立人による前記商標の使用状況は、第1類~第 34類については、百貨小売業として、全類にわたり生活関連商品を中心に販売しているほか、 第35類~第42類についても、一定のサービスについて使用している。 申立人の商標「Ito Yokado」は、AIPPI JAPAN(社団法人日本国際工業所有権 保護協会)が発行するFAMOUS TRADEMARKS IN JAPAN(日本有名商標集)にも、著名 な商標として掲載されている。また、申立人は、国外では、シンガポール、タイ、フィリピ ン、韓国、中国(香港を含む)、EC、イギリスにおいて、「ITOYOKADO」「Ito Yokado」 「Ito‐Yokado」の商標名で、商品商標合計165件、役務商標合計10件につき登録を受けてい る。 なお、不正競争防止法の観点でいえば、申立人は、百貨小売業を営み、衣類、食料品、日 用雑貨等の生活関連商品全般について、「ItoYokado」の営業表示のもと、前述の ような規模で全国的に取引活動を継続してきた。したがって、申立人の営業表示は、百貨小 売業の営業表示として、一般国民の日常生活に密着、浸透したものであるだけでなく、日刊 新聞や経済誌等において、業績が再三取り沙汰されてきたこともあって、その周知性は極め て広い。老若男女の別を問わず、およそ「ItoYokado」の営業表示を知らぬ者はな いといっても過言ではない。 (3)ドメイン名と商標との同一性 登録者が登録しているドメイン名「itoyokado.co.jp」に含まれる「itoyokado」は、外観、 称呼いずれの態様においても、申立人の商標「ItoYokado」と全く同一である。 もっとも、頭文字の「i」「y」については、小文字と大文字の違いはあるが、これはドメ イン名一般に使用される文字がすべて小文字であることの結果にすぎず、この一事をもって 外観の同一性が否定される理由はない。現に、申立人が公式ホームページに使用しているド メイン名は、「itoyokado.iyg.co.jp」である。 (4)登録者の権利・利益 登録者は申立人とは一切の資本関係、取引関係、業務提携関係等に立たず、申立人が登録 者に対して、前記商標の使用を許諾した事実もない。 また、申立人以外に、わが国において、「itoyokado」の名称で一般に認識されている者は いないと認められる。この点、登録者の会社名は株式会社銀河であり、ドメイン名「itoyoka do.co.jp」とは何の関連性も有していない。 さらに、登録者は、自らのホームページにおいてドメイン名を販売しようとしている。 以上の事実だけをとっても、登録者がドメイン名について権利または正当の利益を有して いないことは明らかである。 (5)不正の目的(手続規則3条(b)(ⅸ)(3)) ① 登録者は、2000年4月10日以後現在に至るまで、URL「http://itoyokado.co.jp/」において 「SHOPPING PLAZA」と題するホームページを開設し、ドメイン名「itoyokado.co.jp」を販 売しようとしてきた。 ② このホームページには、「SHOP 1」~「SHOP 7」の記載があり、そこから他のURL にリンクするようになっているが、リンク先は、ダイエー(http://www.daiei.co.jp/)、ジャス コ(http://www.jusco.co.jp/)、西友(http://www.seiyu.co.jp/)、マイカル(http://www.mycal.c o.jp/)、伊勢丹(http://www.isetan.co.jp/)、高島屋(http://www.takashimaya.co.jp/)、三越(h ttp://www.mitsukoshi.co.jp/)の各公式ホームページであって、いずれも登録者自身の営業行為 とは全く無関係である。また、「Welcome To My Home Page」という記載もあるが、その リンク先は、申立人の公式ホームページ(http://www.itoyokado.iyg.co.jp/)であって、これも また登録者自身の営業行為とは全く無関係である。したがって、このホームページ上で、登 録者の営業行為として唯一意味のある記載は、「ITOYOKADO.CO.JP 上記ドメインお譲りし ます」という一点に限られることになり、結局、登録者は、前記ドメイン名を販売すること を唯一の目的として、このホームページを開設したものと認めざるをえない。 ③ また、登録者は、同日以前に、大手サイト「YAHOO JAPAN」のオークションにおい て、何と最低落札価格10億円で前記ドメイン名を出品していたことが判明している(甲7- 平成12年11月16日付毎日新聞の記事)。 ④ 以上の事実によれば、登録者が、申立人またはその競業者に対して、前記ドメイン名 に直接かかった金額を超える法外な対価を得るために、同ドメイン名を販売することを主た る目的として、同ドメイン名を登録または取得していることが如実に認められる(方針4条 b(ⅰ))。 ⑤ したがって、登録者が不正の目的で前記ドメイン名を登録または使用していることは 明らかである。 (6)申立ての必要性 第三者が前記ドメイン名を使用したホームページを開設することは、商品・役務に関す る広告に申立人の商標を付して展示・頒布する行為に該当するとともに(商標法25条、2条3 項7号)、申立人の業務にかかる営業の表示として需要者の間に広く認識されているものと 同一の営業表示を使用して、申立人の営業と混同を生じさせる行為にも該当する(不正競争 防止法2条1項1号)。 登録者は、自らのホームページを通じて前記ドメイン名を第三者に販売しようとしており、 それが第三者によって購入されれば、かかる商標法違反、不正競争防止法違反の事態が発生 することは明らかである。前述のような申立人の商標登録状況、営業状況のもとでは、第三 者の購入目的は、①商標法・不正競争防止法違反行為、または②登録者同様の販売行為のい ずれかにならざるをえないからである。したがって、そのような事態を未然に防止するため には、申立人としては、たとえ法外な価格であっても、登録者からの前記ドメイン名の購入 を余儀なくされることになるところ、以上のような登録者の行為は、ドメイン名の登録制度 を利用した悪質な企業恐喝であるといわざるをえない。 よって、申立人は紛争の対象であるドメイン名の登録について、申立人への移転を請求す る。 b 登録者の主張 (1)申立人の主張に対する認否 「Itoyokado」が著名な商標「イトーヨーカ堂」に類似していることは認める。 権利または正当な利益の有無については争う。 不正の目的の有無については争う。 (2)登録者について 登録者は、神奈川県座間市において不動産賃貸業、ゲームセンター、ショッピングセンタ ー等を経営する株式会社である。役員は全員代表取締役の身内である小規模家族経営の会社 である。 (3)ドメイン名登録 1999年7月ごろ、たまたまドメイン名取得代行業者の営業を受け、itoyokadoという文字列 のドメイン名が取得できることを知った。登録者もショッピングセンターを経営しており、 常日頃イトーヨーカ堂に親しみを感じていたため、趣味でデパート等のポータルサイトを作 成しようと考え、1999年7月28日にitoyokado.co.jpというドメイン名の登録を受け、同年8月2 日に接続の承認を受けた。 (4)ホームページ開設 登録者は、1999年11月頃代表者の趣味のホームページとして「SHOPPING PLAZA」と題 するサイトを開設した。このホームページの内容は、色々な有名デパートのホームページへ のリンク集である。 2000年4月頃、諸事情によりホームページを閉鎖することを考え、不要になるドメイン名 を処分する意図でホームページ上に「ITOYOKADO.CO.JP上記ドメインお譲りします 詳細 はメールにて」の掲示を表示した。申立人から提出されている甲第2号証のホームページの ハードコピーの画面下部にある「2000年4月10日20:46:53」はこの掲示を表示するためにホー ムページの更新を行った日時である。 また、2000年11月には遊びのつもりで最低落札価格を10億円として当該ドメイン名をネッ トオークションに出品した。 2001年の正月休み中にホームページを閉鎖しようと考え、2001年1月3日頃サーバから当該 ホームページ関連のファイルを削除した。同年1月15日頃、まだホームページが閲覧可能で あることに気づき、再度サーバから当該ホームページ関連のファイルの削除を行い、ホーム ページを閲覧できないようにした。 (5)申立人の主張に対する反論 ① Itoyokadoが株式会社イトーヨーカ堂の商標と類似であることは認めるが、ドメイン名 はあくまでもインターネット上での住所を文字列で表現したに過ぎないものであり、登録の 際に早い者勝ちでその文字列を選択することができ、登録申請者の名称等との関連も考慮さ れない。また、co.jpドメイン名は一般企業向けとされているが、代表者と法人が同一視でき るような個人企業においてはco.jpドメイン名で代表者の個人的なホームページが開設され ることも充分予想されることと考えられるので、co.jpドメイン名だからといって必ずしも営 業目的のホームページであるとは言いがたい。登録の際に自分にとって覚えやすい文字列を 選択し、そのドメイン名を用いてどのようなホームページを開設するかは登録者の自由に任 されている。 ② 登録者は偶然、itoyokado.co.jpというドメイン名が使われていないのを知り、代表者個 人が使用するつもりでこれを取得したものである。さらに登録者が当該ドメイン名を登録し た当時は紛争処理手続も制定されておらず、他人の商標と類似する文字列を選択したことに よって自分のドメイン名を強制的に移転・抹消させられるリスクは関知しないところであっ た。登録者が申立人の商標に類似したドメイン名を登録したからといってそのことで責めら れる謂れはない。 ③ 申立書において、当該ホームページの開設が商標法2条3項7号の「商標の使用」に 当たる旨、不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示の使用」に当たる旨の主張がなされ ているが、あくまでもドメイン名はインターネット上の住所表記に過ぎず、その登録者の名 称、ドメイン名の文字列及び開設されたホームページの内容がそれぞれ当然に関連があるわ けではない。ドメイン名が既存商標に類似しているからといって当然にそのホームページが 既存商標権者によって作成された物と誤認されるとは限られず、「商標の使用」とは言えな い。そのドメイン名を使用したということが既存商標権者の権利を侵害するか否かは、その ドメイン名によるホームページの内容を総合的に判断して考えるべきである。 ④ このホームページは登録者の代表者が趣味で開設したデパート等のリンク集であり、 登録者の営業に関するものではない。ドメイン名を譲る旨の表示も、最初からホームページ 上にあった訳ではなく、ホームページ運営をやめるためドメイン名が不要になるという事情 から掲示したものである。ドメイン名販売のために当該ホームページを開設したという申立 書の主張は本末転倒しており事実と異なっている。また、譲る旨の表示も対価を要求する物 ではなく、営業行為には当たらないと考える。このホームページ上にあるitoyokadoの表示は、 アドレス欄のドメイン名の表示とドメイン名を譲る旨の表示であるだけであるので、当該ホ ームページが申立人の「商品等表示を使用」しているとは言えない。 ⑤ 当該ドメイン名を使用した登録者のホームページは、あくまでも登録者の代表者個人 の趣味で開設した非商業目的なものである。登録者の情報はメールアドレスしか表示してい ないので、登録者がそこから営業上の利得を得ることはありえない。ホームページの内容も デパートのリンク集であることから申立人の商標の価値を毀損することもない。以上のこと から登録者はドメイン名に関する正当な利益を有していると考える。 ⑥ ドメイン名を譲る旨の表示については前述のとおり、ホームページの閉鎖を考えて不 要になるドメイン名を誰か欲しい人がいれば譲渡しようと表示した物であり、申立人やその 競業者に対して不当な対価を請求するような表示ではないし、その目的は一切なかった。当 然、申立人やその競業者に対して直接そのような要求をした事はなく、また、申立人からこ の件について問い合わせを受けたこともない。突然このような申立をされて不当な請求をし たかのようにいわれることは心外である。ドメイン名の譲渡の申し出自体はドメイン名登録 規則第29条でドメイン名の第三者への移転が認められていることからも非難されること ではない。 ⑦ また、ネットオークションに出品した件であるが、オークションには他にもたくさん のドメイン名が出品されており、自分の登録しているドメイン名も、こういうものがあると 一般に知らせてみたいと思い、出品してみることにした。これも、遊びで出品したものであ るので、落札されることは考えておらず、逆に落札されても困ると思い、絶対に落札されな さそうな金額として最低落札価額金10億円と設定した。このオークションには当然のこと ながら誰も入札者はいなかった。自分のホームページで当該ドメイン名を譲る旨を掲示して いたが、オークションで値を吊り上げることは考えておらず、あくまでも遊びのつもりであ った。 登録者は当該ドメイン名を代表者の趣味のホームページのために使おうと取得したので あり、不正な対価を得ることを目的として取得したのではない。登録者は株式会社であるが、 規模も小さく、ほとんど代表取締役の個人企業に近い。このような会社では、代表取締役個 人と会社とが同一視されることが多く、会社の資産を代表者が個人的に使用するということ はまま有ることである。 ⑧ 申立ては、登録者が当該ドメイン名を取得するより前に、iyg.co.jpというドメイン名 で申立人及びそのグループ企業のホームページを開設しており、登録者がドメイン名を取得 したことにより申立人のネット事業が妨害されたとはいうことは出来ない。 ⑨ 前述のとおり、当該ドメイン名によるホームページの内容はただのリンク集であり、 申立人のホームページにリンクするようになっている。その内容によって申立人の事業を混 乱させることはありえないし、そもそも登録者と申立人とでは経営の規模が大きく違うので 競業関係にならない。登録者自身の営業に関するホームページにはリンクしていないので、 申立人の営業と登録者の営業とが第三者から見て混同されることも起こり得ず、登録者がこ のホームページから営業上の利得を得ることもない。 ⑩ 登録者は、昨年来当該ホームページを閉鎖するため当該ドメイン名を処分するつもり でいた。 もし、申立人から事前に問い合わせがあればこのような紛争となることなく、穏便に話し 合いをすることができたかと思うと残念である。申立書を受け取って、企業恐喝など思いも しないことでこのような申立をされていることを知り、申立人に対して話し合いを求めたが、 まったく聞く耳を持たず門前払い同然の扱いを受けた。登録者は、申立人が主張するような 不正の目的を持っていないことを訴えるべくこの答弁書を提出するにいたった次第である。 確かに不要となったドメイン名であるから、ドメイン名を申立人に移転することには異論 がない。ただ、いままで述べたような事情があるにもかかわらず、一方的に悪者にされて強 制的に移転されるというのは、余りに乱暴な話であり公平でない。登録者は当該ドメイン名 を正当な手続きを経て取得しているのであるから、申立人に移転するにしても、登録実費等、 正当な対価の支払いを要求したい。 5 争点及び事実認定 JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下「規則」という)15条(a)は、パ ネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則についてパネルに次のように指 示する。「パネルは、提出された陳述及び文書の結果に基づき、方針、規則、及び適用され うる関係法規の規定、原則ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」 処理方針4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい る。 (ⅰ)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と 同一または混同を引き起こすほど類似していること (ⅱ)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこと (ⅲ)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること 本パネルは、提出された陳述及び証拠の結果に基づき、上記当事者の主張に現れた争点に つき、次のとおりの事実を認定した。 (1)申立人及び登録者 ①申立人は、百貨小売業およびこれに関連する商品の製造・加工・卸売業等を目的とする 株式会社であり、昭和47年4月に申立人の営業表示を示すロゴタイプを「イトーヨーカドー」 とし、同年9月には東京証券取引所市場第二部上場、昭和48年7月には同第一部上場をして今 日に至っており、第42期決算期(平成12年2月末日)現在における資本金は466億7400万円、 売上高は1兆4907億900万円、経常利益は510億8100万円、従業員数は1万6514名で、四国及び 九州を除く全国に176店舗を展開している。なお、第38期(決算期は平成8年2月)から第42 期までの営業収益は毎年1兆5000億円強である。 ②登録者は、資本金1000万円で、総合衣料品販売等を目的(乙第一号証)とする株式会社 であり、ショッピングセンターを経営していると自認している(答弁書3.(一)1)。登 録者は、ドメイン名「itoyokado.co.jp」をJPNICに1999年7月28日に登録し、同年8月2日に接続 の承認を得、同年11月頃より申立人主張の2000年12月27日までは、URL「http://itoyokado.co. jp/」において「SHOPPING PLAZA」と題するホームページ(以下「itoyokadoサイト」とい う。)を開設していた。もっとも、現在は「Forbidden」の表示が出てアクセスできない状態 にある。 (2)申立人が正当な利益を有する商標権及び周知の営業表示 登録者は登録ドメイン名の 「itoyokado」が著名な商標「イトーヨーカ堂」に類似していることを認める、と述べている が(答弁書3.(二)1)、比較の対象が申立人の主張と対応しないので、証拠を精査する と以下のとおりである。 申立人は、商品については、昭和34年法下の商品区分第1類から第34類までについて、昭 和51年以降に順次商標登録出願をすることにより、アルファベット文字の「Ito Yokado」(o とYの間が若干離れている)と横書してなる商標権(以下、その商標を「申立人商標」とい う。)、及びカタカナ文字「イトーヨーカドー」と申立人商標を上下2段にそれぞれ横書し て配列した商標権を有し、役務については第35類から第42類までについて、図形の下に申立 人商標を配列した商標権、及び申立人商標と同一構成からなる商標権をそれぞれ有している (甲第4号証の1~43)。また、申立人は「itoyokado.iyg.co.jp」のドメイン名でホームペ ージを開設している。 申立人商標は、商品区分の全類について商標権を有しており、また、AIPPI JAPAN(社団 法人日本国際工業所有権保護協会)が発行するFAMOUS TRADEMARKS IN JAPAN(日本 有名商標集、甲第5号証)に、有名商標として掲載されている。そして、申立人が百貨小売 業を営み、衣類、食料品、日用雑貨等の生活関連商品全般について、申立人商標をその営業 表示として使用して、前述のような経過と規模で全国的に取引活動を継続してきた。したが って、申立人の営業表示としての申立人商標は、百貨小売業を営む申立人の営業表示として、 遅くとも1999年6月までに、少なくとも周知性を獲得していたと認められ、申立人において、 これら商標権や営業表示について使用する正当な利益を有していることが肯認される。 (3)登録者ドメイン名と申立人商標等との類似性 登録者ドメイン名は「itoyokado.co.jp」であり、申立人商標及び申立人の周知表示の「It o Yokado」の表示と誤認混同を引き起こすほど類似していると認められる。 すなわち、登録者ドメイン名「itoyokado.co.jp」のうち、「.jp」の部分はトップ(第1)レ ベルドメインを構成しISO3166の国別コードにより日本を意味する部分であり、「.co」の部 分はセカンド(第2)レベルドメインを構成し登録者の組織属性の種別コードにより一般企 業を意味し、「itoyokado」の部分はサード(第3)レベルドメインであり、当該ドメイン名 を使用する主体を示すコードからなるものである。このように、トップレベルドメイン及び セカンドレベルドメインはそれぞれドメイン名の使用主体が属する国及び組織を表示する ものであるから、登録者ドメイン名において主たる識別力を有するのは「itoyokado」の部 分にあるものと認められる。すなわち、登録者ドメイン名の要部は「itoyokado」である。 そして、この登録者ドメイン名の要部と申立人商標及び申立人の周知表示である「Ito Yoka do」を対比すれば、後者は「Ito」と「Yokado」の2語よりなり、それぞれの最初の文字「I」 と「Y」が大文字であり、上記2語の間が若干離れているが、全体の外観及び取引の実状を 考慮した場合一連不可分に認識され、両者が外観上・称呼上類似していると認められるもの である。なお、登録者もその類似性を認めている。 また、登録者は、itoyokadoサイトを開設していた。このサイトには、「SHOP 1」~「SH OP 7」の記載があり、そこから他のURLにリンクするようになっていたが、リンク先は、申 立人と同業者であり、いずれも申立人と共に我が国で広く知られている有名かつ大規模な百 貨小売業である、ダイエー(http://www.daiei.co.jp/)、ジャスコ(http://www.jusco.co.jp/)、 西友(http://www.seiyu.co.jp/)、マイカル(http://www.mycal.co.jp/)、伊勢丹(http://www.ise tan.co.jp/)、高島屋(http://www.takashimaya.co.jp/)、三越(http://www.mitsukoshi.co.jp/)の 各公式ホームページであった。このようなitoyokadoサイトに、一般人とりわけ消費者がアク セスして、これら有名な百貨小売業者のURLにリンクしたポータルサイト上に「itoyokado. co.jp」という登録ドメインネームを見た場合、登録ドメインネームの保有者ないし当該サ イトの開設者が、リンクされた各百貨小売業者と同様な有名かつ大規模な百貨小売業者であ る申立人の業務と関連があるものと誤認混同する蓋然性が高いことは容易かつ合理的に推 認できるものである。以上からすれば、現実に混同の事実が主張・立証されてはいないが、 このポータルサイトのトップ頁及びURLにおける登録者ドメイン名の表示の使用(甲第2号 証)が申立人商標等と誤認混同を惹き起こすおそれがあったと言わざるを得ない。 なお、ドメイン名は、インターネットにおける住所表示的機能を有するのは事実であるが、 同時にドメイン名を業務上使用したインターネット通信やホームページにおいては、その通 信やホームページを使用している業務主体を認識させる機能を有するものと認められる。し かるところ、上記のとおり登録者ドメイン名と申立人商標等とはその要部において全体とし て類似の範囲に属するものというべきであり、その現実の使用状況においても誤認混同を生 じるおそれがあるものであることは、上記認定のとおりである。 したがって、登録者ドメイン名が、処理方針4条a.(ⅰ)の要件に該当することは明らか といわなければならない。 (4)登録者ドメイン名の登録についての権利または正当な利益の存否 登録者ドメイン名の取得は、登録者の答弁によれば、1999年7月頃にドメイン名取得代行 業者の営業を受けたことに端を発していること、そしてその登録日は同月28日である。 一 方、申立人は、上記年月日までに、商品・役務の区分の全類について商標権を有しているば かりか、その営業表示について少なくとも周知性を獲得しており、登録者にライセンス許可 もドメイン名取得の許可もなんら与えていない。また、登録者も申立人商標が著名であると 認めており、ドメイン名取得時には、「登録者もショッピングセンターを経営しており、常 日頃イトーヨーカ堂に親しみを感じていた」とも述べている。 なお、登録者は、「2.a(ⅱ)権利または正当な利益の有無について」の項において、 「当該ドメイン名を使用したホームページは、あくまでも登録者の代表者個人の趣味で開設 した非商業目的なものであり、登録者の情報はメールアドレスしか表示していないので、登 録者がそこから営業上の利得を得ることはありえず、またホームページの内容もデパートの リンク集であり申立人の商標の価値を毀損することもないから、登録者はドメイン名に関す る正当な利益を有している」、と主張するが、そもそもショッピングセンターを経営する営 利法人である登録者が、有名百貨小売業7社に「SHOP 1」ないし「SHOP7」をリンクさ せ、また、ショッピングバッグの図形のエリアのクリックから申立人のホームページにリン クさせる(乙第3号証)内容の該ホームページ(itoyokadoサイト)は、そのホームページが 申立人の業務にかかるものとの誤認を生じさせる蓋然性が高いことは前記のとおりであり、 「代表者の個人の趣味で開設した非営利目的なものであるから正当な利益がある」という主 張には合理性がない。、処理方針4条a.(ⅱ)にいう「正当な利益」は、本来の正当権利者 に優先する権利又は利益が存在しなければならないと解すべきであり、単に登録者の代表者 の個人的趣味であることをもって足りるものではない。また、登録者の情報はメールアドレ スのみであり、ホームページの内容もデパートのリンク集に過ぎないとの主張は、前述の通 り申立人商標の価値を積極的に毀損しなくても周知表示の保有者として先行利益を事実上 でも害する結果を将来する蓋然性のある本件の場合に、正当な利益あるとは言い得ないと解 される。 その他両当事者の主張および証拠を精査するも、処理方針4条c.に該当する事情も見出 せない。 したがって、登録者は、処理方針4条a.(ⅱ)の要件、すなわち登録者ドメイン名の登録 についての権利または正当な利益を有していない、と認めざるを得ない。 (5)登録者ドメイン名の不正目的による登録又は使用 登録者が開設していた「SHOPPING PLAZA」と題するitoyokadoサイトは、上記のとおり ポータルサイトであり、そのリンク先は、有名デパート等の各公式ホームページであって、 いずれも登録者自身の営業行為とは全く無関係であり、また、「Welcome To My Home Pa ge」という記載とショッピングバッグの図形のエリアからのリンクももあったが、そのリン ク先は、申立人の公式ホームページ(http://www.itoyokado.iyg.co.jp/)であった(この点につ いて、登録者は争っていないのみならず、乙第3号証からも認定されうる)、これもまた登 録者自身の営業行為とは全く無関係である。このように、登録者はそのドメイン名によって 自己のショッピングセンター等の業務に関する営業活動は一切行ってこなかった。 さらに、このホームページ上で、「ITOYOKADO.CO.JP 上記ドメインお譲りします」とい う広告を行っていた。 また、登録者は、同日以前に、大手サイト「yahoo japan」のオークションにおいて、最低 落札価格10億円で前記ドメイン名を出品していた(甲第7号証)。 以上の事実が認められる。 以上の事実に関し、登録者は、①登録ドメイン名を、登録者の代表者の趣味のホームペー ジに使用するために取得したに過ぎないし、ドメイン名譲渡の広告は2000年4月頃ホー ムページの閉鎖を考えて不要になったため行ったものでり、②申立人は、登録者が登録ドメ イン名を取得する前に、iyg.co.jp.のドメイン名を取得していたので申立人のネット事業が 妨害されたとはいえない、また,③ネットオークションへの参加も遊びのつもりであった、 と主張している。③については、実際に、登録者が申立人又はその競業者に対して、登録ド メイン名に直接かかった金額を超える法外な対価を得るための行動をした事実は認められ ない。しかしながら、①については、登録者は「1999年7月ごろ、たまたまドメイン名 取得代行業者の営業を受け、itoyokadoという文字列のドメイン名が取得できることを知っ た」ので、「趣味でデパート等のポータルサイトを作成しようと考え」登録ドメイン名の登 録を受けた、と述べている。そして、偶々であってもドメイン名として未登録である他人の 周知の商標や営業表示と同一または類似のドメイン名を取得した場合には、当該他人のネッ ト業務に混乱が生ずる可能性を充分認識していたものと合理的に推認できる。実際、登録者 がitoyokadoサイトでリンクさせた大手百貨小売店7社のドメイン名はいずれも社名の要部 をそのままローマ字書きしたものであるから、これら7社に比肩する規模と認識度を有する 「itoyokado」をドメイン名としてホームページに使用すれば、当該ホームページが申立人の 業務に関わるものとの混同が生ずる蓋然性があることも容易に認識できたものと認められ る。かかる事実関係のもとにおいて、企業規模が異なるとはいえショッピングセンターを経 営する営利法人の名で取得し上記のように使用し、かつ、登録ドメイン名の譲渡をホームペ ージ上で申し出た行為は、客観的には、消費者や競業者の誤認を惹起しあるいは惹起する危 惧を理由として登録ドメイン名を販売することを主たる目的として同ドメイン名を登録し たと推認せざるを得ない。 なお、登録者は現在は既に当該サイトを削除しているようであるが、登録は維持されたま まである。 したがって、登録者には、処理方針4条a.(ⅲ)の要件、すなわち登録者のドメイン名が、 不正の目的で登録又は使用されているとの要件を充足しているとと認めざるを得ない。 6 結 論 以上に照らして、本紛争処理パネルは、全員一致の意見によって、登録者によって登録さ れたドメイン名「itoyokado.co.jp 」が申立人商標及び営業表示と混同を引き起こすほど 類似し、登録者が、登録者ドメイン名について権利又は正当な利益を有しておらず、登録者 ドメイン名が不正の目的で使用されているものと裁定する。 よって、処理方針4条i.に従って、ドメイン名「itoyokado.co.jp」の登録を申立人に移 転を命ずるものとし,主文のとおり裁定する。 2001年3月12日 工業所有権仲裁センター紛争処理パネル 主任パネリスト 田 倉 整 パネリスト 熊 倉 禎 男 パネリスト 小 松 陽一郎 別記 手続きの経緯 (1)申立書受領日 2000年12月27日(電子メール) 2001年1月4日(郵送) (2)料金受領日 申立人代理人は、2000年12月27日に360,000円、同月 28日に不足分(消費税分)18,000円を支払った。 (3)ドメイン名、登録者の確認日 2000年12月28日 センターの照会日(電子メール) 2000年12月28日 JPNICの確認日(電子メール) 確認内容 1) 申立書に記載の登録者はドメイン名の登録者であること 2) 登録担当者は小林三壽彌であること (4)申立不備通知書 2001年1月10日、申立書に不備があったので、申立不備通知書 を申立人代理人に送付(郵送、電子メール) (5)補正申立書受領日 2001年1月11日(電子メール) 2001年1月15日(郵送) (6)適式性 センターは2001年1月15日、補正申立書がJPNICの処理方針、 規則、補則の形式要件を充足することを確認した。 (7)手続開始日 2001年1月15日 手続開始日の通知 2001年1月15日 JPNICへ(電子メール) 申立人へ(電子メール及び郵送) (8)登録者・登録担当者への送付、内容及び到達 1) 2001年1月15日、センターは申立書及び申立通知書を登録者及 び登録担当者へ郵送した。 2) センターは答弁書提出期限が2001年2月13日であることを通 知した。 3) 2001年1月17日、登録者・登録担当者は申立書及び申立通知書 を受領した。 (9)答弁書の提出の有無及び受領日 1) 提出有 2) 2001年2月9日(電子メール及び郵送) (10)答弁書の申立人への送付日 2001年2月9日(電子メール、FAX及び郵送) (11)パネリストの選任 申立人は3名パネルを要求 主任パネリスト候補者の提示日(両当事者へ) 2001年2月15日(電子メール、FAX及び郵送) 主任パネリスト候補者に対する選考順位回答書の受領日 申立人 2001年2月19日(電子メール) 登録者 2001年2月17日(FAX) 中立宣言書の受領日 2001年2月26日 パネリスト 田倉整(主任パネリスト) 熊倉禎男 小松陽一郎 (12)紛争処理パネルの指名及び予定裁定日の通知日(JPNIC及び両当事者へ) 2001年2月22日(電子メール及び郵送) 裁定予定日 2001年3月14日 (13)パネルによる審理 適宜に、電子メール及びFAX・電話等の手段を利用